実家の土地を相続することになったら最初に考えるべきこと
2025.8.29
実家の相続でまず検討すべき3つの選択肢
実家の土地や建物を相続することになった場合、最初に考えるべきなのは「どうするか」という選択肢の整理です。
特に大切なのは、相続後の生活や負担を見据えて、現実的な対応を検討することです。
主に考えられるのは、次の3つの選択肢です。
- 実家に住む、あるいは維持管理する
- 実家を売却する、または他の方法で活用する
- 相続を放棄する、または国に引き取ってもらう制度を使う
それぞれにメリット・デメリットがあります。
感情だけで決めるのではなく、冷静に将来のことを考えて判断することが大切です。
実家に住む・維持するという選択肢
親の家に住み続ける、またはそのまま残しておく選択肢は、思い出や感情を大事にしたい方にとって、自然な選択に思えるかもしれません。
実家が自分の現在の生活圏にある場合や、将来的に住む予定がある場合には、有力な選択肢となります。
ただし、住まない場合でも、建物や庭の手入れ、固定資産税の支払いなど、維持するための負担は発生します。
維持する場合のメリット・デメリット
メリット
- 実家を残すことで家族の思い出を守れる
- 将来的に住む選択肢が持てる
- 不動産として資産価値がある場合は活用も視野に入る
デメリット
- 維持費(固定資産税、修繕費、草刈りなど)がかかる
- 定期的な管理が必要(空き家の防犯・劣化対策など)
- 将来手放す場合にも手間や費用がかかる
空き家のまま放置してしまうと、思わぬトラブルの原因になることもありますので、しっかりと管理計画を立てる必要があります。
売却・活用するという選択肢
実家を手放して売る、あるいは貸すなどの活用方法もあります。
特に、自分で住む予定がない場合には、現実的で経済的な選択肢となることがあります。
不動産の売却や活用には、法的な手続きや専門知識が必要になることもあるため、早い段階で情報収集や専門家への相談をしておくと安心です。
売却の流れと必要な手続き
売却を進めるには、以下のような流れがあります。
- 不動産会社へ査定を依頼する
- 相続登記を済ませて名義を変更する
- 売買契約を結ぶ
- 引き渡しと代金の受け取りを行う
特に重要なのは、相続登記を終えて「自分の名義」にしておくことです。
これが済んでいないと売却手続きができません。
また、兄弟など共有者がいる場合は全員の同意が必要になることもあります。
賃貸や更地利用などの活用例
実家をすぐに売らず、貸したり土地として活用する方法もあります。
- 空き家を賃貸住宅として貸す
- 建物を取り壊して駐車場として貸す
- 一部を貸して収入を得る(例えば畑や倉庫)
ただし、賃貸に出す場合はリフォーム費用がかかることがあり、また、貸した後のトラブル対応も必要になる場合があります。
更地にすると固定資産税が高くなることもありますので、税金面も含めた検討が大切です。
相続放棄や国庫帰属という選択肢
どうしても実家を引き継げない場合には、「相続放棄」や「国庫帰属制度」を検討することもあります。
相続放棄は、財産も負債もすべて放棄する手続きです。一方で国庫帰属制度は、不動産だけを国に引き取ってもらう制度です。
ただし、どちらも条件や手続きがあるため、事前の確認が不可欠です。
放棄や帰属制度の概要とリスク
相続放棄の特徴
- 家や土地だけでなく、他の財産も放棄することになる
- 原則、相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きが必要
国庫帰属制度の特徴
- 一定の条件を満たした土地だけが対象(建物は対象外)
- 解体や整備、申請費用などを自己負担で行う必要がある
- 審査に通らないと引き取ってもらえないこともある
これらの制度は便利に見える一方で、手間や費用、リスクもあります。そのため、慎重に判断することが求められます。
相続開始後に必要な基本的な手続きの流れ
親が亡くなり相続が始まった場合、まずやるべきことは手続きを順を追って整理することです。
感情的にも大変な時期ですが、相続には期限のある手続きも多いため、落ち着いて対応することが大切です。
基本的な流れは次の通りです。
- 相続人と財産の調査
- 遺言書の確認
- 遺産分割の話し合い(遺産分割協議)
- 名義変更や相続登記の手続き
- 相続税の申告と納付(必要な場合)
それぞれのステップについて、以下で詳しく見ていきましょう。
相続人・財産の調査と遺言書の確認
まずは「誰が相続人か」を確認する必要があります。
一般的には、配偶者・子ども・兄弟姉妹などが該当しますが、状況により異なる場合があります。
続いて、相続対象となる財産の内容を調べます。
現金や預貯金だけでなく、実家の土地・建物、借金などの負債も含まれます。
また、遺言書があるかどうかの確認も重要です。
自筆の遺言書が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
遺言があれば、それに従って相続が行われるケースもあります。
遺産分割協議と実家の取り扱い
相続人が複数いる場合、誰が何を相続するかを話し合う「遺産分割協議」を行います。
この話し合いで、実家を誰が相続するか、どう扱うかも決める必要があります。
協議の結果は、書面にして全員が署名・押印する「遺産分割協議書」として残す必要があります。
兄弟間の話し合いの進め方
実家の扱いをめぐっては、兄弟姉妹間で意見が分かれることも少なくありません。
感情的にならず、冷静に事実と希望を整理して話すことが大切です。
- 相手の立場や生活事情を尊重する
- 自分の希望も具体的に伝える
- できれば第三者(専門家)に同席してもらう
相続は感情のもつれからトラブルになりやすいため、丁寧な話し合いを心がけることが重要です。
主な分割方法の違い(代償分割・共有分割・換価分割)
実家のような不動産は、単純に「分ける」ことが難しいため、次のような分け方が検討されます。
- 代償分割:1人が実家を相続し、その代わりに他の相続人に現金を渡す方法
- 共有分割:複数人で共有名義にして所有する方法(後の管理や売却が難しくなることも)
- 換価分割:実家を売却し、得たお金を分ける方法
それぞれにメリットと注意点があり、将来的なトラブルを避けるためにも、慎重に選ぶことが求められます。
相続登記と名義変更のポイント
実家の名義を自分に変更するには、「相続登記」という手続きが必要です。
これは法務局に申請して行うもので、不動産の名義を相続人の名前に変えることを指します。
2024年からは、相続登記が義務化されました。正当な理由なく放置すると過料(罰金のようなもの)を科される可能性があります。
手続きには以下の書類が必要です。
- 被相続人の戸籍や住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 実家の登記簿謄本や固定資産評価証明書
不備があると手続きが進まないため、事前に必要書類を確認し、専門家に相談することも検討されるとよいでしょう。
実家を相続する際に気をつけたい費用と税金
実家を相続すると、「もらうだけ」と思われがちですが、実際にはさまざまな費用や税金が発生することがあります。
特に土地や建物といった不動産は、持っているだけで固定資産税がかかり、長期的には維持費も無視できません。
また、一定の金額を超えると相続税の申告・納付も必要になります。
制度を正しく理解し、どの費用がどのタイミングでかかるのかを把握しておくことが重要です。
相続税と申告期限
相続税は、遺産の総額が一定額を超える場合に課税される税金です。
すべての人が対象になるわけではありませんが、実家の土地に価値がある場合は、注意が必要です。
基礎控除と課税対象の目安
相続税には「基礎控除」という非課税枠があり、以下の式で計算されます。
3,000万円 +(法定相続人の数 × 600万円)
たとえば、相続人が2人なら4,200万円までは非課税になります。
この金額を超えた分について、相続税がかかる可能性があります。
なお、土地の評価は「路線価」などに基づいて計算されます。
実際の売買価格とは異なるため、評価方法について専門家に確認することも考えられます。
申告と納付の期限(10ヶ月以内)
相続税の申告と納付には期限があります。
原則として、相続があったことを知った日(多くの場合は死亡日)の翌日から10ヶ月以内に、税務署に申告しなければなりません。
- 期限:10ヶ月以内に申告と納付
- 現金での納付が基本(分割払いや延納も一部可能)
期限を過ぎると、延滞税や加算税などのペナルティが発生する可能性があります。
余裕をもって準備を始めることが大切です。
維持にかかる費用
実家を相続した後は、住むかどうかにかかわらず、持っているだけで費用が発生します。
代表的なものが、固定資産税と修繕費です。
固定資産税や修繕費
固定資産税は、毎年市町村から課税される税金で、土地や建物の評価額に基づいて金額が決まります。
居住していなくても、所有している限り支払う必要があります。
また、建物は時間が経つと劣化しますので、外壁の補修、雨漏りの修理、シロアリ対策などの修繕費がかかることがあります。
- 固定資産税:年数万円〜数十万円程度
- 修繕費:老朽化の程度により変動
長期間使わない場合でも、最低限の維持管理費は見込んでおくべきでしょう。
空き家のまま放置するリスク
実家を空き家のまま放置すると、次のようなリスクがあります。
- 建物の劣化が進み、修繕費が高くつく
- 不審者の侵入や放火などの防犯リスク
- 近隣からの苦情や行政指導の対象となる可能性
特に、管理されていない空き家は「特定空家等」として行政から指導を受けることがあります。
適切な管理を行わないと、固定資産税の軽減が外されることもあるため、注意が必要です。
税制優遇制度の活用
相続に関する税金には、要件を満たせば税金が軽くなる特例制度があります。
実家を相続する場合は、次の2つの制度が特に重要です。
小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた土地を相続する場合、一定の条件を満たせば土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
- 対象となるのは、330㎡までの宅地
- 同居していた、または相続後も居住を継続することが要件となる場合が多い
この特例を使えば、土地の評価額が大きく下がり、相続税が軽減される可能性があります。
ただし、細かい条件があるため、早めの確認が必要です。
空き家3000万円特別控除
被相続人が1人暮らしだった住宅を相続し、一定の条件のもとで売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
- 対象:昭和56年5月31日以前の旧耐震基準の住宅
- 売却までに耐震改修をするか、更地にする必要がある
- 相続開始から3年以内に売却が必要
この制度を使えば、売却益にかかる税金を大幅に軽減できる可能性があります。
ただし、要件が複雑なため、制度の詳細を税理士などによく確認することが重要です。
実家の相続でよくあるトラブルとその回避法
実家の相続は、多くの方にとって大切な問題ですが、感情や立場の違いが原因でトラブルに発展することが少なくありません。
特に、兄弟姉妹が複数いる場合や、実家をどう扱うか意見が分かれるときには、話し合いがこじれやすくなります。
また、相続後に何もしないまま放置してしまうことで、行政からの指導や近隣とのトラブルに発展することもあります。
こうした事態を避けるためには、早めの話し合いと、責任のある管理が重要です。
兄弟間での公平性と感情のずれ
実家の相続で最も多いトラブルの一つが、兄弟間での「不公平感」や「感情のずれ」です。
たとえば、長男が実家に住み続けたいと思っていても、他の兄弟が「公平に分けてほしい」と希望することがあります。
また、親の介護をどの程度手伝ったか、金銭的な支援をしたかなど、相続とは直接関係のない事情が感情的な対立を招くこともあります。
- 「自分だけ損をしている」と感じる
- 「感謝が足りない」と不満を持つ
このような対立を避けるためには、事実と気持ちの両面を丁寧に共有しながら、冷静に話し合うことが大切です。
必要に応じて、中立的な第三者に入ってもらうことも検討されます。
放置によるトラブル
相続した実家をどう扱うか決まらないまま、何もせずに放置するケースもあります。
しかし、不動産は放っておくと、さまざまな問題を引き起こす原因となります。
たとえば、
- 草木が生い茂り、近隣の景観や生活に悪影響を与える
- 老朽化による倒壊や、害虫・害獣の発生
- 空き家への不法侵入や火災の危険
こうした状態が続くと、行政から「特定空家等」として指導や勧告を受ける場合もあります。
行政からの指導や近隣トラブル
「特定空家等」とは、安全性や衛生面に問題がある空き家のことで、市町村が判断します。
放置された実家がこれに該当すると、次のような措置がとられることがあります。
- 改善命令や修繕の指導
- 命令に従わない場合の強制撤去(費用は所有者負担)
- 固定資産税の優遇措置の除外
また、空き家が原因で隣家に被害が及ぶと、損害賠償を求められることもあり得ます。
こうした事態を避けるためには、相続後すぐに実家の管理や処分について検討することが重要です。
専門家に相談すべきタイミングと選び方
実家の相続には、法律、税金、不動産など複数の分野の知識が関わります。
一人で判断するのが難しいと感じたら、専門家に相談することが大切です。
特に、財産が不動産中心の場合や相続人が複数いる場合は、早めの相談がトラブル予防につながります。
ここでは、どのタイミングでどの専門家に相談すべきか、そして相談時に準備しておくべきことを見ていきます。
どの段階で誰に相談すべきか
相続に関わる専門家は、以下のように分野ごとに役割が異なります。
- 弁護士:相続人同士で意見が合わない、遺言書の有効性で争いがあるときなど、法律トラブルの相談に適しています。
- 司法書士:相続登記や名義変更など、不動産の手続きを依頼できます。
- 税理士:相続税の計算や申告が必要なとき、節税の方法などを含めた相談が可能です。
- 不動産会社や宅建士:実家を売却・賃貸・活用したい場合に、査定や売却のサポートが受けられます。
- 行政書士:遺産分割協議書の作成や書類の準備など、手続き面の支援ができます。
それぞれの専門家が得意とする領域があるため、状況に応じて相談先を使い分けることがポイントです。
相談時に準備しておくこと
専門家に相談する際は、必要な情報を整理しておくと、相談がスムーズに進みます。
主に準備しておきたいのは、次のような内容です。
- 被相続人の氏名、死亡日、家族構成
- 遺言書の有無と内容(ある場合)
- 不動産の場所、固定資産税の明細、登記情報
- 預貯金や株式などの資産一覧
- 借金やローンなどの負債情報
- 相続人それぞれの意向や状況(住まい、生活など)
これらをあらかじめ整理して持参することで、専門家が正確に状況を把握しやすくなり、適切なアドバイスが受けられます。
また、相談内容はなるべく具体的にメモしておくと、聞き忘れや説明不足を防ぐことができます。
まとめ:実家の相続は「判断→手続き→対策」の3ステップで整理を
実家の相続は、思い出や家族とのつながりがある分、感情的な判断に流されやすい場面もあります。
しかし、長い目で見て後悔しないためには、現実的な視点で段階的に整理していくことが重要です。
実家の相続は、次の3つのステップで考えると、全体の流れが把握しやすくなります。
ステップ1:判断
実家を「残す」「活用する」「手放す」など、将来どうするかを家族で話し合い、方向性を決めます。
ステップ2:手続き
相続人の確認、遺産の調査、遺産分割協議、相続登記など、必要な法的手続きを確実に進めます。
ステップ3:対策
維持費や税金、将来的な売却や管理に関する準備を行い、費用負担やトラブルのリスクに備えます。
このように、順を追って進めていくことで、実家の相続を円滑に進めることができます。
一人で抱え込まず、必要に応じて専門家の助けを借りることも大切です。