兄弟が亡くなったときの相続放棄|手続きの流れと注意点をわかりやすく解説
2025.8.11
兄弟や姉妹が亡くなったとき、「自分が相続人になるとは思っていなかった」「借金があると聞いて、相続したくない」と感じた方も多いのではないでしょうか。
特にご自身に直接関係ないと思っていた相続であっても、ある日突然、手続きや判断を迫られることがあります。
この記事では、兄弟姉妹が亡くなったときに相続放棄を検討すべきケースや、放棄の手続き方法、注意すべきポイントをやさしい言葉で解説します。
相続にあまり詳しくない方でも理解しやすいように、基本から順を追って説明していきますので、ご安心ください。
また、「手続きはいつまでに?」「ほかの兄弟には知らせたほうがいい?」といった、よくある疑問や誤解されがちな点にも触れています。
兄弟の相続が発生し、どう対応すればよいか迷っている方は、まずこの記事を読み進めながら、正しい情報を知ることから始めてみましょう。
兄弟姉妹が相続人になるのはどんなとき?
「兄弟が亡くなったと聞いたけれど、自分に相続の話がくるとは思っていなかった」
そんなふうに戸惑う方は少なくありません。実は、兄弟姉妹が相続人になる場面は限られており、すべてのケースで自動的に相続の権利が発生するわけではありません。
この章では、兄弟姉妹が相続人となる具体的な条件や背景について、順を追ってやさしく説明していきます。
相続順位の基本と兄弟姉妹の立ち位置
相続には、法律で定められた「相続順位」があります。
誰が相続人になるかは、被相続人(亡くなった方)にどのような家族がいるかによって決まります。
まず、最も優先されるのは「子ども(または孫)」で、これが第1順位です。
子どもがいない場合、次に優先されるのは「親などの直系尊属」で、これが第2順位にあたります。
そして、子どもも親もいない場合に、兄弟姉妹が相続人になると法律で定められています。これが、兄弟姉妹が第3順位の相続人といわれる理由です。
なお、被相続人に配偶者(夫や妻)がいた場合、配偶者は常に相続人になります。
配偶者と、第1〜第3順位の相続人が共同で相続する形です。
たとえば、被相続人に子どもがいれば配偶者と子どもが、子どもがいなければ配偶者と親が相続人になります。
このように、兄弟姉妹が相続人になるのは、被相続人に子供がおらず、かつ、被相続人の親が亡くなっている場合といえます。
子や親が相続放棄したことで兄弟姉妹が相続人になるケース
被相続人に子や親がいるにもかかわらず、兄弟姉妹が相続人になる場合があります。それが、子と親が相続放棄をした場合です。
たとえば、被相続人に子がいても、「借金が多いから相続したくない」として放棄すると、子は最初から相続人でなかったことになり、第2順位である親が相続人になります。
さらにその親も相続を放棄すると、ようやく第3順位である兄弟姉妹が相続人となるのです。
このように、上位の相続人がすべて放棄した場合に、兄弟姉妹が相続人としての権利と責任を引き継ぐことになります。
なお、相続人となった場合でも、自分が相続を引き受けるかどうかは自由に選ぶことができます。
不要な負担を避けたいときには、相続放棄の手続きを検討することも大切です。
兄弟の相続放棄を考えるべき典型的なケース
相続というと、プラスの財産を受け取るイメージを持たれる方が多いかもしれません。
しかし、実際には「相続したくない」と感じるケースも少なくありません。
特に、兄弟姉妹の相続となると、被相続人との距離や関係性によっては、相続そのものを辞退する=相続放棄を考える場面が出てきます。
この章では、兄弟として相続放棄を検討すべき代表的なケースについて、いくつかの具体的な事情に分けて見ていきます。
借金の有無だけでなく、争いへの懸念、他の兄弟への配慮、自身の生活状況など、放棄を考える理由は人それぞれです。
どんな場合に相続放棄が選択肢となるのか、自分に当てはまるかどうかを判断する参考にしてください。
借金(負債)が多くて相続したくない場合
被相続人に多額の借金がある場合、その借金も相続の対象となります。
相続では、現金や不動産などの「プラスの財産」だけでなく、借金や未払い金といった「マイナスの財産」も引き継ぐことになります。
つまり、相続人になると、借金の返済義務も負うことになりかねません。
特に、プラスの財産よりも借金のほうが多いときには、相続すればするほど損をする可能性があります。
このような場合には、相続放棄をすることで借金の負担を避けることが可能です。
ただし、放棄には期限があるため、借金の有無や金額を早めに確認し、対応を検討することが重要です。
借金の有無や金額を調査したい場合は、弁護士などの専門家に相談するといいでしょう。
相続争いに巻き込まれたくない場合
相続では、遺産の分け方をめぐって親族同士で意見が食い違い、トラブルになることがあります。
特に、兄弟姉妹間で関係が複雑な場合は争いが起きやすくなります。
「関係がこじれるくらいなら関わりたくない」「親族との話し合いが精神的に負担」と感じる方も多いでしょう。
こうした場合、相続放棄を選ぶことで争いの場から身を引くという選択もあります。
放棄すれば、相続人としての立場を失い、遺産分割の話し合いに参加する必要もなくなります。
関係悪化を避けたいという理由で放棄を選ぶのも、一つの考え方です。
ほかの兄弟に遺産をゆずりたい場合
自分が相続するよりも、「ほかの兄弟に遺産を受け取ってもらったほうがよい」と考えることもあるでしょう。
たとえば、被相続人と特に親しかった兄弟がいたり、介護や看取りを担っていた兄弟がいたりする場合です。
こうしたとき、相続放棄をすることで、自分の取り分を放棄し、他の兄弟に多くの遺産を回すことができます。
ただし、注意が必要なのは、放棄したからといって自分の希望する人に遺産がそのまま渡るわけではないという点です。
放棄した場合、その相続人は、はじめから相続人でなかったことになり、残りの相続人で遺産を分けることになります。
相続人同士で話し合いができる関係であれば、意向を共有したうえで放棄を選ぶとよいでしょう。
手続きの手間や時間をかけたくない場合
相続の手続きは、想像以上に手間と時間がかかることがあります。
必要な戸籍の収集、銀行口座の解約手続き、相続登記、相続税申告、遺産分割協議など、多くの作業が求められます。
被相続人とあまり関わりがなかった場合や、自身の生活が忙しく余裕がない場合、「相続手続きにかかわりたくない」と感じるのも無理はありません。
そのようなとき、相続放棄をすることで、一連の相続手続きから完全に離れることができます。
放棄の手続き自体にも一定の労力は必要ですが、長期にわたる遺産分割や相続人間のやりとりに比べれば、早めに区切りをつけられるという利点があります。
負担やストレスを避けたい場合の選択肢として、相続放棄は有効な手段となり得ます。
相続放棄と遺産分割協議との違い
相続放棄ではなく、遺産分割協議において、自信が一切の遺産を取得しなければいいと考える方もおられるかも知れません。
確かに、後述の通り、相続放棄には、期限があり、家庭裁判所への手続きが必要であるなど、手間がかかるため、そう言った手間のかからない話合いである遺産分割協議で遺産を一切受け取らないという方法もあります。
しかし、相続放棄した場合と遺産分割協議において遺産を一切受け取らなかった場合には大きな違いがあります。
それは、遺産の中に借金があった場合、遺産分割協議において、借金を一切相続しないと決めたとしてもその借金の債権者には効力がないということです。
したがって、債権者は、遺産分割協議において借金を相続しなかった相続人にも借金を返還するように請求ができるのです。
これは、遺産分割協議は、相続人同士の内部的な取り決めに過ぎず、外部の債権者にはその効力を及ぼさないためです。
反対に、相続放棄をした場合には、債権者から借金を返済するように請求されることはありません。
したがって、遺産の中に借金があり、この借金を絶対に支払いたくないという場合には、相続放棄をしておく方が安心であるといえます。
相続放棄の期限と起算点に注意
相続放棄は、いつでも自由にできるわけではありません。
法律上の期限が決まっており、それを過ぎると放棄できなくなることもあるため、注意が必要です。
特に兄弟姉妹が相続人となるケースでは、「自分が相続人になったことに気づくのが遅れた」という事例も珍しくありません。
重要なのは、いつから3か月のカウントが始まるのか(=起算点)を正しく理解しておくことです。
この章では、まず相続放棄の基本的な期限ルールについて確認し、その後、兄弟姉妹が相続人となる場合に起算点がいつになるのか、具体例を交えてわかりやすく解説していきます。
相続放棄の「3ヶ月ルール」とは?
相続放棄には、「相続の開始を知った日から3か月以内」という期限があります。
具体的には、被相続人(亡くなった方)が亡くなり、自分が相続人になったことを知ったときから、3か月以内に家庭裁判所に放棄の申立てをする必要があります。
これを「熟慮期間」と呼ぶこともあります。
ただし、「いつ知ったか」というのは状況によって異なり、明確に判断しにくいこともあります。
判断に迷う場合は、日付を記録しておくとともに、早めに対応することが大切です。
先順位の放棄を知った日が起算点になるケースとは
兄弟姉妹が相続人になる場合、もともと相続の順位は第3位のため、自分が相続人になることに気づくのが遅れるケースがあります。
たとえば、被相続人に子どもや親がいた場合、その人たちが相続人になります。
ところが、その人たちが相続放棄をすると、次の順位である兄弟姉妹に順番がまわってきます。
このとき、「自分が相続人になった」と知ったタイミングが、相続放棄の起算点となります。
実際には次のような状況で気づくことがあります。
- 役所や債権者から通知が届いたとき
- 親族から「他の人が放棄したから、今はあなたが相続人」と連絡を受けたとき
このような通知や連絡を受けた日が、「自分が相続人であることを知った日」とされることがあります。
つまり、最初の死亡時点ではなく、放棄があったことを知った日が3か月の起算点になる可能性があるのです。
ただし、これはすべてのケースで当てはまるわけではなく、状況によって判断が分かれることもあります。
不安がある場合は、早めに事実関係を確認し、3か月のカウントが始まっていないか注意深く見ておく必要があります。
相続放棄の流れと必要な書類
相続放棄は、ただ「放棄します」と伝えるだけでは完了しません。
正式な手続きが必要であり、家庭裁判所での続きを経て、はじめて法律上の効力が発生します。
そのため、放棄を希望する場合には、手続きの進め方や必要な書類を事前に理解しておくことが大切です。
流れを知らずに期限を過ぎてしまったり、必要書類に不備があると、放棄が認められないこともあります。
この章では、まず相続放棄の一連の手順を5つのステップに分けて説明し、そのうえで、兄弟姉妹が相続人として放棄する際に求められる戸籍や附票などの具体的な書類について詳しく解説していきます。
相続放棄の5ステップ|家庭裁判所への手続きの全体像
相続放棄は、家庭裁判所に正式な申立てをして、受理されてはじめて成立します。
以下の5つのステップに沿って、順を追って進めることで、手続きをスムーズに行うことができます。
Step 1|必要書類の準備
まずは、申立てに必要な書類をそろえることから始めます。
主に必要なのは、申述書、被相続人の戸籍関係の書類、放棄する本人の戸籍などです(詳細は次の項目で解説します)。
戸籍は取得に時間がかかることもあり早めの準備が重要です。
Step 2|相続放棄申述書の作成
家庭裁判所の書式を使い、「相続放棄の申述書」を作成します。
申述書には、被相続人との関係や放棄の理由などを記入します。
記載ミスや記入漏れがあると訂正が必要なので慎重に作成しましょう。
Step 3|家庭裁判所への提出(郵送または持参)
書類がそろったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
郵送での提出が一般的ですが、窓口に持参しても構いません。
提出の際には、収入印紙(手数料)や郵便切手も必要になるので、裁判所の案内を確認しましょう。
Step 4|照会書への回答
申立て後、裁判所から「照会書」という書類が送られてくることがあります。
これは、放棄の意思が本人のものか、内容に誤解がないかを確認するためのものです。
指定された期限までに、丁寧に回答して返送します。
Step 5|受理通知の到着
家庭裁判所によって申立て内容が確認され、問題がなければ「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
この通知により相続放棄の手続きが完了したことになります。
以後は、相続人としての権利や義務をすべて失いますので、遺産分割協議などに参加する必要はありません。
以上が、相続放棄の基本的な手続きの流れです。各ステップを一つずつ確実に進めることで、スムーズな放棄が可能になります。
兄弟が相続放棄する際に必要な戸籍とその他の書類
兄弟姉妹が相続放棄をする際には、家庭裁判所に対して自分が相続人であることを証明するための戸籍や住所関係の書類をそろえる必要があります。
以下が主な書類の一覧です。
- 相続放棄の申述書
家庭裁判所の指定書式に記入する放棄の申立書です。記入内容に誤りがないよう注意しましょう。 - 被相続人の戸籍(除籍、改制原戸籍)謄本(出生から死亡まですべて)
相続関係を証明するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。途中で本籍地が変わっている場合は、そのすべての戸籍を取り寄せる必要があります。 - 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
被相続人の最後の住所地を確認するために必要です。家庭裁判所の管轄を判断する資料にもなります。 - 申述人(放棄する本人)の戸籍謄本
申述人が被相続人と兄弟姉妹であることを証明するために必要です。 - 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
これらの書類は、市区町村役場で取得できますが、取り寄せに時間がかかる場合があります。
また、提出先となる家庭裁判所ごとに、収入印紙の額や必要な郵便切手の枚数が異なるため、事前に確認しておくと安心です。
相続放棄には3か月の期限があるため、書類の収集はできるだけ早めに取りかかることが重要です。
他の兄弟姉妹との関係で気をつけること
兄弟姉妹が複数いる場合、相続放棄をするときには自分だけでなく、他の相続人との関係にも注意が必要です。
法的には個人単位での手続きですが、放棄することで他の兄弟に影響が出ることもあり、不要な誤解やトラブルを防ぐための配慮が求められる場面もあります。
この章では、放棄の意思をどのように他の兄弟に伝えるか、そして、複数人で放棄を検討する際に一緒に進めることの利点や注意点について見ていきます。
相続を「誰か一人の問題」とせず、家族全体でうまく対応するための考え方を確認しておきましょう。
放棄を知らせる義務はないが、連絡はしておくと安心
相続放棄は、個人の判断で行える手続きであり、他の相続人に知らせる義務は法律上ありません。
自分が放棄したからといって、必ずしも他の兄弟に通知しなければならないというルールはないのです。
ただし、実際には自分の放棄によって相続人が変わる可能性があるため、事前に知らせておくとトラブルを避けやすくなります。
たとえば、自分が放棄することで別の兄弟の相続分が増える可能性がある場合、連絡がないまま手続きが進むと、「勝手に話を進められた」と感じられることもあるかもしれません。
また、誰が放棄するかによって、遺産分割の進め方や対応も変わってくるため、放棄する意向がある場合は、早めに他の兄弟と情報共有しておくことが望ましいといえるでしょう。
無用な誤解や感情的な対立を避けるためにも、「知らせる義務はないけれど、伝えておいたほうが安心」と考えるのが現実的です。
まとめて手続きするメリットと注意点
兄弟姉妹が複数人で相続放棄を検討している場合、それぞれが個別に動くよりも、ある程度協力して準備するほうが効率的なこともあります。
たとえば、被相続人の戸籍や附票などは、誰か一人がまとめて取り寄せたものをコピーして使える場合があり、書類の手間や費用を抑えられることがあります。
また、同じ家庭裁判所に申立てる場合は、提出のタイミングをそろえておくと処理がスムーズになることもあります。
ただし、注意したいのは、相続放棄はあくまで「個人の判断と責任」で行う手続きであるという点です。
兄弟が放棄するからといって、自分も同じように放棄すべきとは限りません。相続財産の内容や各自の事情は異なるため、自分にとってどうするのが適切かを冷静に判断することが大切です。
まとめて手続きを進めることは便利な面もありますが、それぞれが納得したうえで進めることが、円満な対応につながります。
相続放棄後の影響とよくある誤解
相続放棄は、手続きをすればそれで終わりと思われがちですが、その後の影響や、放棄に関する誤解が原因でトラブルになることもあります。
特に「自分が放棄したら誰が代わりに相続するのか」「遺産は最終的にどうなるのか」といった疑問は多くの方が感じるポイントです。
この章では、相続放棄が成立したあとに起こることや、放棄によって自動的に次世代に相続が移るという誤解、すべての相続人が放棄した場合の遺産の行き先など、よくある誤認や注意点について整理して解説します。
制度を正しく理解し、不安や誤解を残さずに相続に向き合うための知識として、確認しておくことをおすすめします。
放棄しても自分の子に相続が移ることはない
相続放棄をすると、「自分の代わりに子どもが相続するのでは?」と心配される方もいますが、相続放棄をした場合、その人の子に相続の権利が移ることはありません。
この点は、いわゆる「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」と混同されがちです。
代襲相続とは、たとえば本来相続人になるはずの子どもが亡くなっていた場合に、その子(孫)が代わりに相続人になるという仕組みです。
しかし、相続放棄をした場合は「最初から相続人ではなかった」とみなされるため、その子どもにも相続権は生じません。
たとえば、兄弟として相続人となり、自分が放棄した場合、その子どもに権利が移ることはありません。
あくまで、次の順位にいる他の兄弟姉妹や、甥・姪が相続人となる可能性があるにすぎません。
この誤解は非常に多いため、相続放棄を考える際には、自分の家族に負担が移ることはないという点を安心材料として覚えておくとよいでしょう。
全員が放棄すると遺産はどうなる?
相続人が複数いる場合、その全員が相続放棄をすることもあります。
では、誰も相続しないとなったとき、残された遺産はどうなるのでしょうか。
結論として、すべての相続人が相続放棄をすると、最終的には遺産は国のもの(国庫に帰属)になります。
これは民法に定められた制度で、相続する人がいない財産は、国が引き取る仕組みです。
ただし、すぐに国庫に移るわけではありません。
まずは家庭裁判所が「他に相続人となる人がいないか」を調査します。
たとえば、兄弟姉妹が全員放棄した場合、その子である甥や姪が相続人になることもあります。
さらに、そうした人たちも全員が放棄した場合には、家庭裁判所が「相続財産管理人(そうぞくざいさんかんりにん)」を選任します。
相続財産管理人は、残された財産を管理し、債権者への弁済など必要な処理を行ったうえで、残余があれば国庫に帰属させるという流れになります。
このように、すべての相続人が放棄したからといって、すぐに国に渡るわけではなく、法律に従った段階的な手続きが進められることになる点を知っておくとよいでしょう。
相続放棄の注意点と専門家に相談すべきタイミング
相続放棄は、法律で認められた制度であり、正しく手続きすれば誰でも利用できます。
しかし、実際には「放棄したつもりが成立していなかった」「知らないうちに放棄できない状態になっていた」というトラブルも少なくありません。
制度を正しく使うには、いくつかの注意点や落とし穴を知っておくことが重要です。
また、書類の作成や期限の管理に不安がある場合は、専門家のサポートを受けることで、確実に手続きを進められることもあります。
この章では、相続放棄を考えるうえで見落としがちな注意点と、どのようなときに弁護士への相談を検討すべきかをわかりやすく解説していきます。
「財産を処分したあと」は放棄できない可能性あり
相続放棄を考えるうえで、被相続人の財産に手を付けてしまった場合には注意が必要です。
法律上、相続人が「相続財産を処分した」とみなされる行為を行った場合、放棄できなくなる可能性があります。
たとえば次のような行為が該当することがあります。
- 被相続人の預金を引き出して使った
- 被相続人の車を売却した
- 相続登記の手続きを行った
これらは「相続する意思がある」と判断されかねないため、あとから放棄しようとしても家庭裁判所に認められない場合があります。
ただし、通夜や葬儀費用を立て替えるために一時的に預金を使っただけなど、状況によっては例外的に認められることもあります。
判断が難しい場合は、手を付ける前に専門家に確認することが大切です。
照会書の回答によって放棄が認められない場合もある
相続放棄を申し立てた後、家庭裁判所から「照会書(しょうかいしょ)」という書類が送られてくることがあります。
これは、放棄の意思が本当に本人のものであり、内容に誤解がないかを確認するためのものです。
この照会書には、相続財産の内容、放棄の理由、財産に手を付けていないかなどの質問が書かれています。
記入に不安がある場合は、あらかじめ内容を整理し、必要に応じて専門家に確認してから提出するのが安心です。
熟慮期間を過ぎた相続放棄は「相当な理由」が必要
相続放棄には「3か月の期限(熟慮期間)」があることはすでに説明しましたが、この期間を過ぎてから放棄するには、相当な理由が必要となります。
たとえば、以下のような事情があった場合、遅れても放棄が認められる可能性があります。
- 相続人であることをまったく知らされていなかった
- 借金の存在を最近になって初めて知った
- 遺産の内容に重大な誤解があった
ただし、これらが「相当な理由」と認められるかどうかは、裁判所の判断によります。
単に忘れていた、忙しくて手続きをしていなかったという理由では、通常は認められません。
3か月を過ぎている場合は、自分の事情が「相当な理由」となる可能性があるかを慎重に見極め、書面などで経緯をきちんと説明することが求められます。
手続きに不安がある場合は弁護士への相談を
相続放棄は、自分で行うことも可能な手続きですが、書類の準備や照会書の記入など、慣れていないと戸惑う場面も多くあります。
特に以下のような場合には、弁護士といった法律の専門家に相談することが検討されます。
- 相続人が複数いて、誰が放棄するか調整が必要な場合
- 借金や不動産など、相続財産の内容が複雑な場合
- すでに財産に手を付けてしまった可能性がある場合
- 熟慮期間が過ぎてしまった可能性がある場合
専門家に相談すれば、手続きの正確性が増すだけでなく、不要なトラブルを未然に防ぐこともできます。
相談先に迷ったときは、地元の司法書士会や弁護士会、法テラスなどを利用するのも一つの方法です。
まとめ|兄弟の相続放棄は期限・手続き・影響を正しく理解して進めよう
兄弟や姉妹が亡くなったとき、自分が相続人になるとは思っていなかった方も多いでしょう。
兄弟姉妹は法律上の相続順位では第3順位とされ、通常は子や親が先に相続人となりますが、その人たちが相続放棄すると、兄弟姉妹に順番がまわってくることがあります。
しかし、相続には借金などのマイナスの財産も含まれるため、状況によっては放棄することで不要な負担を避けられる場合もあります。
放棄には「3か月以内」という期限があり、しかも起算点がケースによって異なるため、早めの判断と行動が求められます。
また、家庭裁判所での正式な手続きや必要書類の準備、他の兄弟姉妹との関係性への配慮など、注意すべきポイントは少なくありません。
放棄によって自分の子どもに相続が移ることはなく、全員が放棄した場合には最終的に国に帰属することもあります。
相続放棄は「知らなかった」「手続きを間違えた」では済まされない手続きです。
制度の基本と流れ、影響をしっかり理解したうえで、必要に応じて専門家の力を借りながら、冷静に判断して進めることが大切です。