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経営者の相続とは?会社と自社株の承継でまず理解しておきたいこと

2025.9.29

経営者が亡くなったとき、相続の問題はご家族だけでなく会社にも大きく影響します。

 

特に重要なのが自社株です。

 

株式の承継をどう進めるかによって、会社の経営が安定するか、それとも混乱するかが変わってきます。

 

不動産や預金のように分けやすい財産と違い、自社株は経営権と結びつくため、取り扱いを誤ると親族間のトラブルや会社運営の停滞につながることもあります。

 

では、自社株はなぜ特別に重要なのか。

 

どのような手続きや注意点があるのか。

 

この記事では、経営者の相続でまず押さえておきたい基本から、具体的な準備の方法までをわかりやすく解説していきます。

経営者の相続の基本

経営者の相続は、一般家庭の相続と比べて複雑な要素が多く含まれます。

 

相続財産の分け方に加えて、会社の経営の安定性をどう守るかという視点が欠かせません。

 

特に、会社の経営権と結びついている「自社株」の扱いは大きな問題になります。

 

まずは「個人の相続」と「会社に関する承継」の違いを整理し、どの財産が相続の対象になるのかを確認することが大切です。

 

その上で、自社株がなぜ特別に重要視されるのかを理解しておくと、後々の判断がしやすくなります。

個人の相続と会社の相続の違い

個人の相続とは、亡くなった人が生前に所有していた財産を家族などの相続人に引き継ぐことです。

 

不動産や預貯金、車、貴金属などが中心になります。

 

これに対して経営者の場合は、会社の経営に直結する自社株も相続財産に含まれます。

 

会社そのものは経営者個人の財産ではありませんが、自社株を通じて議決権や配当を受ける権利があります。

 

つまり、自社株の承継は「資産の承継」であると同時に「経営権の承継」でもあります。

 

この違いを理解していないと、「会社の資産まで分けられる」と誤解が生じ、トラブルに発展することがあります。

 

個人の財産と会社の財産を切り分けて考えることが重要です。

相続の対象になるもの・ならないもの

相続の対象になるのは、亡くなった経営者の名義で所有していた財産です。

 

代表的なものは次のとおりです。

  • 預貯金や現金
  • 住宅や土地などの不動産
  • 上場株式や投資信託
  • 自社株式
  • 車、宝飾品、骨董品などの動産

 

相続の対象にならないもの(会社名義の財産)は次のとおりです。

  • 会社の預金口座
  • 工場や店舗などの会社所有の不動産
  • 機械や備品などの会社の資産

 

ただし、役員貸付金・役員借入金などは個人の財産や負債として相続に影響します。

 

どこまでが個人のものかを丁寧に仕分けることが必要です。

「自社株式」が特に重要とされる理由

自社株は議決権に直結し、会社の意思決定に大きな影響を与えます。

 

相続人で平等に分けると、誰が経営の中心か曖昧になり、重要な決議が通らないおそれがあります。

 

また、自社株の評価額が高いと相続税の負担が大きくなることにも注意が必要です。

 

納税資金を準備できなければ、株式の売却や経営への影響が生じる可能性があります。

 

自社株の承継は会社の未来を左右します。

会社の相続で必要となる手続きの流れ

経営者が亡くなったとき、相続に関する手続きは一般の家庭と比べて多岐にわたります。

 

特に自社株の承継や役員の交代など、会社独自の対応が必要になるため、全体の流れを把握しておくことが大切です。

 

手続きが遅れると、経営が一時的に停滞したり、法的に無効な状態が続いたりする可能性があります。

 

ここでは、代表的な流れを順番に確認していきましょう。

相続発生から相続人の確定まで

相続が発生したら、まず誰が相続人かを戸籍で確認します。

 

配偶者や子どもが基本で、子どもがいない場合は親や兄弟姉妹が相続人となることがあります。

 

自社株は相続開始で相続人に包括承継され、遺産分割が終わるまで共有として扱われることがあります。

 

共有株式の議決権は代表者の定めが必要です。

 

相続人の確定・代表者の定め・株主名簿の書換が遅れると、基準日や手続の都合で議決権を行使できない場合があるため、早めの整備が望まれます。

 

また、債務が多いと見込まれるときは、相続放棄や限定承認の検討(原則3か月の熟慮期間)も考えられます。

相続財産(自社株・不動産・預金など)の調査と評価

相続人が確定したら、相続財産の洗い出しを行います。

 

経営者の場合は一般的な財産に加え、自社株の評価が大きなポイントです。

 

自社株は市場で流通していないため、国税庁の定める純資産価額方式・類似業種比準価額方式・併用方式で評価します。

 

どの方式かで評価額が大きく変わることがあり、相続税額に直結します。

 

役員貸付金・役員借入金・未払役員報酬・立替金なども併せて把握し、見落としを防ぐことが大切です。

株式の名義変更と役員変更登記

株式は相続で承継されますが、株主名簿の書換(名義の更新)を行っておかないと、基準日や手続の都合で権利行使ができない場合があります。

 

非上場会社では株主名簿管理人を置かないことも多く、会社が手続きを受け付けます。

 

また、経営者が代表取締役であった場合は、役員変更登記を原則2週間以内に申請します。

 

遅延は過料の対象になることがあります。

相続税の申告と納付(10か月以内の期限に注意)

相続税の申告・納付期限は相続開始から原則10か月です。

 

期限後は延滞税・加算税が発生することがあります。

 

資金手当てが難しい場合は、要件を満たせば延納(分割)や物納が検討されます。

 

災害等では期限延長が認められる場合もあります。

 

経営者の相続では自社株の評価が高額になりやすく、納税資金の確保が課題になりがちです。

 

生命保険・死亡退職金の非課税枠、事業承継税制、融資などを組み合わせ、期限内納付を見据えた計画を立てましょう。

株式の分割と経営権の関係

経営者の相続では、自社株をどのように分けるかが大きな課題になります。

 

自社株は財産としての価値だけでなく、経営権を左右します。

 

分け方次第では、意思決定が滞ったり、親族間の対立が生じることがあります。

 

ここでは、分割時に起こりやすい問題と、経営を安定させる工夫を見ていきます。

株式を兄弟で分けた場合に起こりやすい問題

兄弟が複数いる場合、「公平に分けよう」という考えから株式を均等に相続するケースがあります。

 

しかし、この分け方にはリスクも伴います。

 

たとえば、3人兄弟で株式を均等に分けると、それぞれが会社に対して同じ議決権を持つことになります。

 

すると、会社の方向性を決める株主総会で意見が対立した場合に過半数をまとめられず、重要な決議が成立しない状況が生じやすくなります。

 

さらに、株式を持つ兄弟の中に会社経営に関心のない人がいた場合、配当だけを求める姿勢になり、現場で経営に携わる兄弟と対立することもあります。

 

最悪の場合、株式を外部の第三者に売却し、意図せぬ株主が会社に関与してくる可能性もあります。

 

こうしたリスクを防ぐためには、株式を単純に分けるのではなく、承継の方法を慎重に検討する必要があります。

議決権の割合と経営の安定性

株式の持ち分は、そのまま議決権の割合に直結します。

 

議決権の多寡によって、会社の意思決定に与える影響は大きく異なります。

 

代表的なラインを整理すると以下のようになります。

  • 1/3超の株式:会社の重要事項(定款変更など)を拒否できる権限
  • 1/2超の株式:株主総会で普通決議を単独で可決できる権限
  • 2/3超の株式:定款変更など特別決議を単独で可決できる権限

 

このように、株式の持ち分割合は経営権そのものを意味します。

 

経営を安定させるには、後継者にある程度の割合を集中させることが望ましいとされます。

 

逆に、相続人に細かく分散してしまうと、どの決議にも十分な議決権を持つ人がいなくなり、経営が停滞するリスクが高まります。

株式を集中させる方法(遺言・生前贈与・信託など)

株式を特定の後継者に集中させるには、いくつかの方法があります。

 

代表的な手段は次のとおりです。

  • 遺言書の作成
    経営者が生前に遺言を残し、誰に株式を相続させるかを指定する方法。遺言があることで、相続発生後の争いを防ぎやすくなります。

 

  • 生前贈与
    経営者が存命中に株式を後継者に贈与する方法。相続開始前に株式を移しておけるため、経営権の移行をスムーズに行いやすいですが、贈与税の負担に注意が必要です。

 

  • 家族信託の活用
    株式を信託財産とし、後継者に経営権を集中させる方法。信託契約を通じて、経営に携わる人と株式を保有する人の役割を分けることもできます。

 

  • 持株会やホールディングス化
    株式を特定の枠組みにまとめ、後継者が経営を安定して担えるようにする方法。中長期的な事業承継を見据えて活用されることがあります。

 

こうした方法を検討することで、株式の分散による経営の混乱を避け、後継者が安定して会社を引き継げる体制を整えやすくなります。

経営者の相続における事業承継の選択肢

経営者が亡くなった場合、会社をどう引き継ぐかは大きな課題となります。

 

相続で財産を分けるだけでは会社は存続できず、「誰が経営を担うのか」という事業承継の視点が欠かせません。

 

事業承継にはいくつかの方法があり、会社の規模や家族構成、業界の状況によって適した選択肢が異なります。

 

ここでは代表的な3つの承継方法を見ていきましょう。

親族内承継|後継者を家族から選ぶ場合

もっとも一般的なのが、子どもや配偶者などの親族に会社を引き継ぐ方法です。

 

親族内承継は取引先や従業員からの理解も得やすく、会社の文化や経営方針を維持しやすいというメリットがあります。

 

特に、すでに後継者候補が会社で働いている場合は、スムーズにバトンタッチできる可能性が高まります。

 

一方で、後継者となる家族が必ずしも経営に適しているとは限りません

 

本人に経営の意思がない場合や、兄弟姉妹の間で後継者をめぐる対立が生じることもあります。

 

また、親族内承継では相続財産の分割と経営権の集中をどう両立させるかが課題となりやすく、遺言や生前贈与を通じた調整が必要になるケースも多いです。

親族外承継|社員や第三者への承継、M&Aも選択肢

後継者が親族にいない場合や、適任者が見当たらない場合は、親族以外に承継する方法もあります。

 

たとえば、長年勤めて会社の状況をよく理解している役員や従業員に経営を任せる「従業員承継」があります。

 

この場合、従業員に株式を引き継ぐ形が多く、金融機関や外部の支援機関からのサポートを受けることも検討されます。

 

また、近年は「M&A(会社の売却・譲渡)」を選ぶ経営者も増えています。

 

第三者の企業に会社を譲ることで、後継者問題を解決しつつ、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性があります。

 

ただし、適切な買い手を見つけるには時間がかかるため、早めに準備を始めることが大切です。

廃業・解散という選択肢とその注意点

やむを得ない場合には、会社を畳む「廃業・解散」という選択肢もあります。

 

後継者が見つからない場合や、業績が低迷して今後の存続が難しいと判断される場合に選ばれることがあります。

 

廃業をする場合でも、従業員の雇用や取引先への対応、会社の債務整理など、多くの手続きを踏まなければなりません。

 

特に法人を解散するには清算手続きが必要で、資産の売却や負債の精算を進めることになります。

 

準備不足のまま廃業を進めると、債権者や取引先とのトラブルに発展するおそれがあります。

 

廃業は最後の手段ともいえますが、会社の状況や将来性を冷静に見極めたうえで、選択肢のひとつとして検討されることもあります。

経営者の相続で起こりやすいトラブルと対策

経営者の相続は、財産の分け方だけでなく会社の経営権にも関わるため、一般の相続より複雑でトラブルが発生しやすいといわれます。

 

特に、自社株の扱いや債務の引き継ぎに関して意見が割れることが多く、会社の存続に影響することもあります。

 

ここでは、起こりやすい代表的なトラブルと、その対策を見ていきましょう。

後継者を巡る相続人間の争い

もっとも多いトラブルは、誰が会社を継ぐのかを巡る相続人同士の対立です。

 

たとえば、長男を後継者に考えていた経営者の意向が明確に示されていなかった場合、ほかの兄弟姉妹が「自分も経営に関わりたい」「株式は平等に分けるべきだ」と主張することがあります。

 

このような争いは、会社の経営権と財産分割の両方に関係するため、解決が難しくなりやすいです。

 

後継者争いが長引けば、会社の意思決定が滞り、従業員や取引先にも不安が広がります。

 

対策としては、生前に遺言書を作成して後継者を明確にしておくことが挙げられます。

 

また、遺言だけでなく、家族と事前に話し合って理解を得ておくことが、トラブルを防ぐためには効果的と考えられます。

借入金や保証債務をめぐるリスク

経営者は会社の借入金について個人で保証人になっていることが多くあります。

 

この「連帯保証債務」も相続の対象となり、相続人に引き継がれる可能性があります。

 

たとえば、経営者が会社の借入金の連帯保証人になっていた場合、その債務は相続人に承継されます。

 

相続人が保証債務を知らなかった場合、突然金融機関から返済を求められることもあり得ます。

 

こうしたリスクに対応するには、事前に保証債務を整理しておくことが大切です。

 

場合によっては、保証契約を見直したり、金融機関と交渉して後継者に引き継ぐ形に変更することも検討されます。

 

もし相続人が債務を引き継ぎたくない場合は、相続放棄や限定承認といった手続きを選択することも可能です。

遺留分(法定相続人の取り分)への配慮

遺留分とは、法律で保障されている「相続人が最低限受け取れる取り分」のことです。

 

たとえば、経営者が「すべての株式を長男に相続させる」と遺言を残しても、他の相続人には遺留分を請求する権利があります。

 

もし遺留分が無視された形で株式を集中させた場合、相続人の一部が遺留分を主張し、株式の分配や金銭での支払いを求める可能性があります。

 

これが原因でトラブルに発展すると、経営の安定が損なわれかねません。

 

対策としては、遺留分を侵害しないように遺言を工夫することや、あらかじめ保険や現金を準備しておき、遺留分を金銭で補えるようにしておくことが挙げられます。

 

経営を継続させつつ、相続人の権利も尊重できる形を整えておくことが大切です。

経営者の相続を円滑に進めるためにできる準備

経営者の相続は、相続財産の承継と同時に会社の経営権の移転も伴うため、準備不足だと大きな混乱につながります。

 

後継者争いや相続税の資金不足といったトラブルを避けるためには、生前から計画的に準備しておくことが重要です。

 

ここでは、代表的な準備方法を紹介します。

遺言書を作成して後継者を明確にする

もっとも基本的で効果的な準備が、遺言書の作成です。

 

遺言書に「誰に株式を承継させるか」をはっきり記しておけば、相続人同士で意見が対立する可能性を減らすことができます。

 

遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、法的に確実性が高いのは公正証書遺言です。

 

公証役場で作成すれば、形式不備で無効になるリスクを避けられます。

 

また、遺言書には株式の承継先だけでなく、会社を引き継ぐ後継者への思いや方針を補足的に記しておくと、家族の理解を得やすくなることもあります。

生前贈与や家族信託を検討する

相続発生後に混乱を避けたい場合は、生前から株式を後継者に移す方法もあります。

 

代表的な手段は次のとおりです。

  • 生前贈与
    経営者が存命中に株式を後継者に贈与する方法です。承継を早めに行えるため、経営権の移行がスムーズになります。ただし、贈与税の負担が大きくなる場合もあるため、税負担の試算が欠かせません。

 

  • 家族信託
    株式を信託財産とし、信頼できる家族に管理・運用を任せる方法です。たとえば「議決権は後継者に集中させ、配当はほかの相続人に分配する」といった柔軟な設計が可能になります。相続人間の公平性を保ちながら、経営を安定させやすい仕組みです。

 

これらの方法は状況によってメリット・デメリットがあるため、複数の選択肢を比較検討すると良いでしょう。

専門家(弁護士・税理士)へ早めに相談する

経営者の相続は、法律・税務・経営の知識が交わる分野です。

 

すべてを家族だけで判断するのは難しいため、専門家に早めに相談することが大切です。

 

  • 弁護士は、遺言の作成や相続人間のトラブル予防に役立ちます。
  • 税理士は、自社株の評価や相続税対策を具体的に試算してくれます。
  • 場合によっては、司法書士や金融機関の担当者も関わります。

 

専門家と一緒に計画を立てることで、想定外の問題に対応しやすくなり、安心して事業承継を進められるようになります。

まとめ|経営者の相続は「株式の承継」と「事業承継の選択」が重要

経営者の相続は、単なる財産分けにとどまらず、会社の将来に直結する重要な出来事です。

 

特に、自社株の扱いは経営権と密接に関わるため、承継の方法を誤ると経営の安定が損なわれるおそれがあります。

 

相続の手続きそのものも、相続人の確定、財産調査、株式の名義変更、相続税の申告など多岐にわたり、時間的な制約もあります。

 

そのため、準備不足のまま相続を迎えると、親族間の争いや納税資金不足など、さまざまなトラブルに直面しやすくなります。

 

円滑に事業を承継するためには、

  • 株式をどのように承継させるかを明確にすること
  • 親族内承継・親族外承継・M&A・廃業といった選択肢を理解すること
  • 遺言書や生前贈与、信託、事業承継税制などの制度を適切に活用すること

といった準備が欠かせません。

 

経営者自身が元気なうちに計画を立てておくことで、家族の負担を減らし、会社を次の世代に安心してつなぐことができます。

 

もし具体的な準備を検討される際には、弁護士や税理士などの専門家に早めにご相談されると安心です。

 

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