株式の相続を放棄したいときに知っておきたい基礎知識と手続きの流れ
2025.8.31
株式も相続放棄の対象になるのか?
株式も、ほかの財産と同じように相続放棄の対象になります。
相続放棄とは、亡くなった方の財産や借金を一切受け取らないと家庭裁判所に申し出る手続きです。
これにより、株式を含むすべての相続財産を放棄することになります。
ただし、株式だけを選んで放棄することはできません。
相続放棄は「全部かゼロか」という考え方に基づいており、特定の財産だけを相続することは基本的に認められていません。
そのため、株式だけを避けて、現金や不動産だけ相続するということはできない仕組みです。
株式が相続財産に含まれている場合、企業の経営に関わる権利や責任が伴うこともあります。
そうしたリスクを避けたいと考える場合、相続放棄を選ぶことがありますが、その際はほかの財産もすべて手放すことになる点に注意が必要です。
相続放棄を検討すべきケースとは?
相続放棄は、すべての相続財産を受け取らないという重大な決断です。特に次のようなケースでは、相続放棄を検討することがあります。
- 借金が多い場合
亡くなった方に多額の借金があると、相続人がその返済義務を引き継ぐことがあります。資産よりも負債の方が多い場合は、放棄することで借金を背負うリスクを避けられます。
- 会社の株式や連帯保証がある場合
亡くなった方が会社経営者で、株式や連帯保証をしていた場合、そのまま相続すると経営の責任や保証債務を引き継ぐおそれがあります。経営に関わる意思がない相続人にとっては、大きな負担となることがあります。
- 家族関係が複雑で、トラブルが予想される場合
相続人同士の関係が悪い場合や、遺産分割が難航しそうなときは、あえて相続に関わらないという選択をする人もいます。
- 相続財産が管理しにくいものばかりの場合
価値の不明な株式や、不動産、地方の山林など、すぐに現金化できず手間のかかる財産ばかりの場合も、放棄を検討する価値があります。
これらのケースでは、相続放棄によって将来のトラブルや経済的リスクを避けることができると考えられます。
ただし、判断を誤ると、取り返しがつかなくなることもあるため、専門家に相談したうえで慎重に進めることが大切です。
株式相続のリスクと責任とは?
株式を相続することには、現金や不動産を相続する場合とは異なる特有のリスクや責任が伴います。
特に中小企業や非上場企業の株式を相続する場合は、注意が必要です。
まず、経営への関与を求められる可能性があります。
亡くなった方が会社の代表者や主要株主であった場合、その株式を相続することで、経営権が自分に移ることがあります。
経営の知識や経験がないと、会社の運営に関わるプレッシャーや負担が大きくなるかもしれません。
次に、株式がすぐに換金できないことがあります。
上場株式であれば市場で売却できますが、非上場株式は売却先が限られており、簡単に現金化できません。
株式の価値が不明確なまま、保有し続けなければならないこともあります。
さらに、会社の債務や保証責任がついてくる場合があります。
経営者が会社の借入に連帯保証していた場合、その責任を株式とともに引き継ぐリスクもあるため、慎重な確認が必要です。
このように、株式の相続は、単に財産を受け継ぐ以上の重い責任を伴うことがあります。
相続する株式がどのような性質を持つのか、事前にしっかり調べることが大切です。
株式の相続放棄を行う前に確認すべき3つのポイント
株式を含む相続財産を放棄するかどうかは、慎重な判断が求められます。
放棄する前に、次の3つのポイントを確認しておくことが大切です。
1.株式の価値と内容を確認する
相続対象の株式が、上場企業のものか非上場企業のものかで、価値や換金のしやすさが大きく異なります。また、配当金や株主優待などの有無も確認しましょう。特に非上場株式は、価値が不明確なことが多いため、専門家に評価を依頼するのもひとつの方法です。
2.株式に付随する義務がないか調べる株式を相続することで、会社の経営や債務保証に関わる可能性があります。特に、亡くなった方が中小企業の代表だった場合は注意が必要です。保証人になっていた場合、その責任を相続人が引き継ぐリスクもあります。
3.他の財産や負債とのバランスを把握する
株式だけでなく、現金・不動産・借金など、すべての相続財産の全体像をつかむことが重要です。たとえば、借金が多くてプラスの財産が少ない場合は、相続放棄を選ぶことで将来的な負担を避けられることもあります。
これらのポイントを事前に確認することで、相続放棄による後悔やトラブルを防ぐことができると考えられます。
株式を含む相続財産を放棄する手続きの流れ【5ステップ】
相続放棄は、家庭裁判所に申し出て正式に認められる必要があります。
特に株式が含まれる場合は、判断を誤ると経営や財産に関する責任を負う可能性があるため、早めの対応が重要です。
ここでは、相続放棄の基本的な流れを5つのステップに分けてご紹介します。
1. 相続放棄の判断をする(専門家への相談が望ましい)
相続放棄をするかどうかは、個人で判断するのが難しいこともあります。
株式の価値やリスク、他の財産とのバランスなどを総合的に考える必要があるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することが望ましいとされています。
2. 必要書類を準備する(戸籍・申述書など)
家庭裁判所に提出するには、以下のような書類を用意する必要があります。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の戸籍(出生から死亡までのもの)
- 自分との関係が分かる戸籍
- 住民票や本人確認書類 など
書類の不備があると手続きが遅れるため、丁寧に準備しましょう。
3. 家庭裁判所に相続放棄の申述を行う
必要書類がそろったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
申述書の提出だけでなく、印紙代や郵便切手などの費用も必要になるため、あらかじめ確認しておくと安心です。
4. 裁判所からの照会書に回答して返送する
申述後、家庭裁判所から「照会書(しょうかいしょ)」が郵送されてくることがあります。
これは、本当に放棄する意思があるかを確認するための書類です。
内容をよく確認し、期限内に回答して返送する必要があります。
5. 相続放棄申述受理通知書の到着を待つ
照会書に問題がなければ、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
これにより、正式に相続放棄が認められたことになります。
この通知書は、他の相続人や関係者に説明する際にも使える重要な書類なので、大切に保管しましょう。
株式を放棄するメリットとデメリットを比較
株式の相続放棄は、大きなリスクを避けられる一方で、受け取れるはずの利益を手放すことにもつながります。
ここでは、メリットとデメリットを整理して比較してみましょう。
株式を相続放棄するメリット
- 借金や保証債務を引き継がなくて済む
亡くなった方が会社の借入に連帯保証していた場合、その責任を免れることができます。
- 経営に関わる負担を避けられる
株式の相続によって会社の経営に関与する必要が出てくる場合がありますが、放棄すればその責任から解放されます。
- トラブルを回避できる
相続人同士の意見の違いや、株式の分配をめぐる争いを避けられることもあります。
株式を相続放棄するデメリット
- 利益や財産をすべて手放すことになる
相続放棄は株式だけでなく、現金や不動産なども含めたすべての財産を放棄することになります。配当金や株主優待といった株式のメリットも受けられません。
- 一度放棄すると取り消せない
相続放棄は原則として撤回できません。後から「やっぱり株式を持ちたい」と思っても、やり直しはできない仕組みです。
- 他の相続人に負担が移る可能性がある
自分が放棄した分は、次の順位の相続人に移ります。兄弟姉妹や親族に思わぬ負担が及ぶこともあります。
株式の相続放棄は、メリットとデメリットの両面をよく理解したうえで決めることが大切です。
株式相続放棄の注意点と落とし穴
株式を含む相続放棄は、手続きを間違えると「放棄できない」と判断されてしまうことがあります。
ここでは特に注意しておきたい3つの落とし穴を解説します。
相続放棄には申述期限がある(原則3か月)
相続放棄の手続きは、「自分が相続人になったことを知った時」から原則3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。
これを「熟慮期間」と呼びます。
この期間を過ぎると、放棄できなくなり、借金や株式を含むすべての財産を相続したものと扱われる可能性があります。
もっとも、相続財産の全容がすぐに分からない場合などは、家庭裁判所に申し立てて期間を延長してもらえることもあります。
そのため、相続が始まったと分かったら、できるだけ早く財産や負債の状況を確認し、必要に応じて専門家に相談しながら手続きに進むことが安心です。
相続財産を処分すると放棄できなくなる可能性
相続財産を「自分のもの」として扱う行為をすると、法律上は「相続を受け入れた」とみなされ、相続放棄ができなくなることがあります。
これを「法定単純承認」と呼びます。
たとえば、株式の配当金を受け取ったり、株券を売却したりする行為は、放棄の意思があっても「相続した」とみなされるおそれがあります。
相続放棄を考えている間は、株式を含めた財産には手を付けないよう注意することが重要です。
放棄後に株式を動かすと「相続した」とみなされることも
家庭裁判所で相続放棄が認められた後は、原則として相続人ではなくなります。
そのため、株式を動かしたり株主としての権利を行使したりすること自体は本来できない立場です。
ただし、相続放棄をしたにもかかわらず、隠して株式を処分したり、自分の利益のために使ったりする行為をすると、「相続を承認した」と扱われる可能性があります(民法921条)。
放棄が受理された後は、株式やその他の財産には一切関わらないようにすることが安全です。
相続人全員が放棄した場合、株式はどうなる?
相続人が全員そろって相続放棄をすると、株式を含む財産は「誰も引き継がない」状態になります。
では、その後株式はどうなるのでしょうか。
まず、次の順位の相続人に権利が移ります。
たとえば、配偶者や子どもが放棄した場合には、親や兄弟姉妹に相続権が移ります。
もしその人たちも放棄すれば、さらに遠い親族へと順に移っていきます。
それでも最終的に相続する人がいなくなった場合、株式を含む遺産は国に帰属することになります。
ただし、非上場株式などは国が保有しても活用が難しいため、会社側で株式の処理を検討する必要が出てくることもあります。
このように、相続人全員が放棄したからといって、株式が自動的に消えるわけではありません。
放棄によって次の相続人や会社に影響が及ぶ可能性がある点を理解しておくことが大切です。
株式だけ放棄することはできるのか?
相続において「株式だけ放棄して、他の財産は受け取る」という方法は、基本的には認められていません。
相続放棄は、財産の一部だけを選んで放棄することができない仕組みだからです。
つまり、株式を放棄する場合は、現金や不動産なども含めてすべての財産を放棄する必要があります。
この点を理解せずに手続きを進めると、「思っていた財産まで受け取れなくなる」という事態になりかねません。
ただし、遺産分割協議(相続人同士で遺産を分ける話し合い)を通じて、株式を自分が受け取らず、他の相続人に配分することは可能です。
この場合は「放棄」ではなく「分け方の調整」として行われます。
そのため、株式だけを避けたい場合は、相続放棄ではなく遺産分割の工夫で対応できるかを検討することが大切です。
株式が譲渡制限付きの場合の対応策とは?
中小企業などの非上場会社では、譲渡制限付き株式(会社の承認がないと他人に譲渡できない株式)が発行されていることがあります。
この株式を相続すると、売却や名義変更が思うように進まないことがあり、対応策を知っておくことが重要です。
まず、会社の定款や株主名簿を確認する必要があります。
譲渡制限付き株式は、会社のルールによって自由に動かせないため、定款にどのような制限が書かれているかを把握することが大切です。
次に、株式を処分したい場合には、会社や他の株主に売却を打診することが一般的です。
多くの場合、会社自身や既存の株主が優先的に買い取る仕組みになっています。
もし買い手が見つからず、株式を持ち続けるのが難しい場合には、相続放棄を検討することも選択肢になります。
ただし、この場合は株式だけでなくすべての財産を放棄することになる点に注意が必要です。
譲渡制限付き株式は取り扱いが複雑なため、会社側と相談しながら、必要に応じて専門家に確認して進めると安心です。
株式相続放棄に関するよくある質問
株式を含む相続放棄については、多くの方が共通して疑問を持ちます。ここでは、特に多い質問を取り上げて解説します。
株式に価値があるか調べる方法は?
上場株式であれば、証券会社の口座や金融機関を通じて、株価を調べれば簡単に評価できます。
新聞や証券会社のサイトで株価を確認することも可能です。
一方、非上場株式は市場価格がないため、会社の決算書や財務状況から評価する必要があります。
自分で判断するのが難しい場合は、税理士や専門の鑑定人に評価を依頼する方法もあります。
株式を放棄したら借金の相続もなくなる?
相続放棄は「株式だけ」でなく、すべての財産と負債を相続しないという手続きです。
そのため、借金や保証債務も引き継がなくて済みます。
ただし、相続放棄を選んだ場合は、プラスの財産(現金や不動産など)も一切受け取れなくなる点に注意が必要です。
放棄によって兄弟に迷惑がかかることはある?
相続放棄をすると、自分の分の相続権は消え、次の順位の相続人に権利が移ります。
その結果、兄弟姉妹や親族に思わぬ負担がかかることがあります。
たとえば、借金が多い遺産の場合、自分が放棄したことで兄弟に借金が回ってしまうこともあります。
そのため、放棄を検討する際は、自分だけでなく他の相続人にどう影響するかも考えておくことが大切です。
遺産分割協議で借金はすべて他の相続人が相続するため自分は相続放棄までは必要ない?
遺産分割協議で借金はすべて他の相続人が相続することになっており、自分は借金を相続しないため、相続放棄まではいらないのではないかと考える方がいるかもしれません。
しかし、遺産分割協議により自分が借金を相続しないと合意が成立した場合であっても、そのことはお金を貸した債権者には効力が及ばないとされています。
そのため、遺産分割協議の内容にかかわらず債権者は、相続人に法定相続分にしたがって借金を返すようにいうことができるのです。
したがって、借金を返すリスクを絶対に負いたくないという場合には、相続放棄をする必要があります。
まとめ|判断に迷ったら早めに専門家に相談を
株式は、現金や不動産とは違って価値が分かりにくく、経営や保証の責任が伴うこともあるため、相続で受け取るか放棄するかの判断が難しい財産のひとつです。
相続放棄をすれば、借金や株式に関わる責任から解放されますが、同時にプラスの財産もすべて放棄することになります。
また、期限や手続きに不備があると放棄できなくなる可能性もあるため、慎重さが求められます。
判断に迷うときや、株式の価値・リスクがよく分からない場合は、早めに弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談することが安心につながります。
正しい情報を得て行動することで、後悔のない選択をしやすくなるでしょう。